LeMonこどもクリニック

地域に根ざした医療を目指す構想の一環として計画された小児科クリニック。室内に屋根のかかった"建築"を入れ子状にたちあげ、その周囲に外部から連続する中間領域を設けた。待合や受付に加え、通常バックヤードにあるスタッフスペースを建物前面に開くことで自然な対話や気配りが生まれ、まちとつながる親しみやすい空間が実現している。従来のクリニックの要素を再構成することで、民間が担う公共的な場のあり方を模索した。

この小児科クリニックは、総合病院を運営するクライアントが、地域全体により包括的で身近な医療サービスを提供することを目指し、既存病院周辺に複数のクリニックを展開するという構想の一環として計画された。クライアントは、単なる診療の場にとどまらず、高齢者や若年層の孤立を防ぎ、コミュニティやライフラインへの接点となるような、誰もが気軽に立ち寄れるクリニックを目指している。
このような地域に開かれたクリニックを実現するにあたり、カフェやコミュニティスペースなどを併設する事例はあるものの、この小児科クリニックをはじめとした都市部のクリニックでは、求められる診療機能を優先すると余剰のスペースを確保することが難しい。そこで、従来のクリニックの要素そのものを見直し、その配置や構成を工夫することで、地域との関わりを生み出せないか試行した。
大きな屋根をテナント中央にかけた全体構成は、いわば室内に建築を入れ子状にたちあげることで、屋根の周囲を半外部的な空間として扱い、中間領域を設けることを意図している。また、屋根の軒先高さを床から1,920mmの位置まで下げることで、不安な気持ちで来る場合が多いクリニックにおいて子どもが少しでも安心できるようなスケールにするとともに、前面道路からも屋根を認識できるようにし、インテリアでありながらも外観を形成することを試みた。
3つの診察室を中心とした屋根の下には、建物前面に対して開かれた受付・待合・スタッフスペースを配置し、まちと地続きに感じられる雰囲気を目指した。出入り口付近の受付は、単なる手続きのためのカウンターではなく、低めのテーブルとすることで、受付の役割を果たしながら、腰をかけて相談や世間話ができる場として計画した。また、通常はバックヤードに配置されることの多いスタッフスペースを待合の中央に設けることで、自然な対話や気配りが生まれることを意図した。こうした診療にとどまらない関わりを持続的に生み出すためにも、受付・スタッフスペース・診察室を屋根の中央にコンパクトに集約し、スタッフの移動距離を最小限に抑えながら、チームの連携をスムーズに行える平面計画としている。
そのうえで、仕上げには自然素材や絵画を積極的に取り入れた。たとえば、一枚ごとの表情にゆらぎのあるタイルや、木の質感を活かしたパーケットの床には、人の手でつくられているゆえの不揃いさがある。それらが程よく緊張感を和らげ、従来のクリニックとは異なる、人々のリラックスしたふるまいやコミュニケーションを誘発することを狙った。また、円弧状の待合ソファで囲む位置に、大人も子供も眺めていられるような、視線を預ける先として、三瓶玲奈さんの作品を飾った。絵画でありながら、まるで窓によって切り取られた風景のような広がりを感じられるように、アルミ材の見切りを入れ壁と同面で納めている。
このように、本プロジェクトでは、クリニックの要素を再構成することで、地域とつながる新たな医療空間のあり方を模索した。こうしたクリニックが地域に複数点在し、相互に連携することで、単独の施設では実現できない広がりを生み出しうる。この試みを通じて、ひいては民間が担う公共的な場のあり方に、新たな可能性を見いだすプロジェクトとなることを目指した。

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LeMonこどもクリニック

地域に根ざした医療を目指す構想の一環として計画された小児科クリニック。室内に屋根のかかった"建築"を入れ子状にたちあげ、その周囲に外部から連続する中間領域を設けた。待合や受付に加え、通常バックヤードにあるスタッフスペースを建物前面に開くことで自然な対話や気配りが生まれ、まちとつながる親しみやすい空間が実現している。従来のクリニックの要素を再構成することで、民間が担う公共的な場のあり方を模索した。

この小児科クリニックは、総合病院を運営するクライアントが、地域全体により包括的で身近な医療サービスを提供することを目指し、既存病院周辺に複数のクリニックを展開するという構想の一環として計画された。クライアントは、単なる診療の場にとどまらず、高齢者や若年層の孤立を防ぎ、コミュニティやライフラインへの接点となるような、誰もが気軽に立ち寄れるクリニックを目指している。
このような地域に開かれたクリニックを実現するにあたり、カフェやコミュニティスペースなどを併設する事例はあるものの、この小児科クリニックをはじめとした都市部のクリニックでは、求められる診療機能を優先すると余剰のスペースを確保することが難しい。そこで、従来のクリニックの要素そのものを見直し、その配置や構成を工夫することで、地域との関わりを生み出せないか試行した。
大きな屋根をテナント中央にかけた全体構成は、いわば室内に建築を入れ子状にたちあげることで、屋根の周囲を半外部的な空間として扱い、中間領域を設けることを意図している。また、屋根の軒先高さを床から1,920mmの位置まで下げることで、不安な気持ちで来る場合が多いクリニックにおいて子どもが少しでも安心できるようなスケールにするとともに、前面道路からも屋根を認識できるようにし、インテリアでありながらも外観を形成することを試みた。
3つの診察室を中心とした屋根の下には、建物前面に対して開かれた受付・待合・スタッフスペースを配置し、まちと地続きに感じられる雰囲気を目指した。出入り口付近の受付は、単なる手続きのためのカウンターではなく、低めのテーブルとすることで、受付の役割を果たしながら、腰をかけて相談や世間話ができる場として計画した。また、通常はバックヤードに配置されることの多いスタッフスペースを待合の中央に設けることで、自然な対話や気配りが生まれることを意図した。こうした診療にとどまらない関わりを持続的に生み出すためにも、受付・スタッフスペース・診察室を屋根の中央にコンパクトに集約し、スタッフの移動距離を最小限に抑えながら、チームの連携をスムーズに行える平面計画としている。
そのうえで、仕上げには自然素材や絵画を積極的に取り入れた。たとえば、一枚ごとの表情にゆらぎのあるタイルや、木の質感を活かしたパーケットの床には、人の手でつくられているゆえの不揃いさがある。それらが程よく緊張感を和らげ、従来のクリニックとは異なる、人々のリラックスしたふるまいやコミュニケーションを誘発することを狙った。また、円弧状の待合ソファで囲む位置に、大人も子供も眺めていられるような、視線を預ける先として、三瓶玲奈さんの作品を飾った。絵画でありながら、まるで窓によって切り取られた風景のような広がりを感じられるように、アルミ材の見切りを入れ壁と同面で納めている。
このように、本プロジェクトでは、クリニックの要素を再構成することで、地域とつながる新たな医療空間のあり方を模索した。こうしたクリニックが地域に複数点在し、相互に連携することで、単独の施設では実現できない広がりを生み出しうる。この試みを通じて、ひいては民間が担う公共的な場のあり方に、新たな可能性を見いだすプロジェクトとなることを目指した。

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2025.03
Location:
Saitama, Japan
Client:
Jikokai Medical Corporation
Status:
Built
Program:
Clinic
Team

Direction: Hiroaki Suzuki
Design: Mire Kan, Yoshifumi Hashimoto

Collaborators

Construction: Cabbage Truck
Lighting Design: SUGIO LIGHYING DESIGN
Environmetal Design: Masamichi Oura
Signage Design: Misako Taoka/REFLECTA,Inc
Artwork: Reina Mikame/Yutaka Kikutake Gallery
Exhibition Consulting: Kumaya Sato/tandem
Custom Furniture: Inoueindustries
Hardware: WAREHOUSE
Custom Tiles: MIZUNO SEITOEN LAB.
Parquet: Tanaka Sawmill Ltd.
Landscape Design: EN LANDSCAPE DESIGN
Photographer: Takuya Watanabe