
ロフトへ安全に昇降できる階段の新設と、設備更新を主な目的としたマンション一室の改修計画。施主の長年の暮らしを途切れさせず継承することを重視し、必要箇所のみの部分的な改修を実施。リビングの限られた空間を活かすため、雑貨やレコードと共に収納でき、使う時だけ引き出す階段を備えた間仕切りを製作。生活の変化に応じて空間を仕切ったり繋げたりする柔軟さと、施主の時間の積層を感じられる空間づくりを目指した。
施主が長年暮らしたマンション一室の改修計画。主な要望は、老後に備えてロフトへの行き来がしやすくなるよう、既存の折りたたみ式階段を撤去して昇り降りしやすい階段を新たに設けることと、老朽化した設備を更新することの2つだった。改修範囲は必要な箇所のみに絞り、長年積み重ねた施主の暮らしが改修後も途切れず続く計画を目指した。
普段一人で暮らす施主は、下層の、玄関・洗面所・リビングダイニングの各部屋を仕切る建具を開け放し、くるくると回遊できる生活動線で暮らしていた。施主にとって、ロフトへの階段や建具は、パートナーの滞在時や来客時など、普段の生活が少し変調する時、それに合わせて空間を広げたり仕切ったりするためのものだった。
また、改修前のリビングダイニングは、可愛らしい雑貨の数々、レコードやカセットなど、愛着のつまった多くの物で囲まれていた。それらが雑多に置かれた空間は、施主がこの部屋で積み重ねてきた時間が自ずと伝わってくるような魅力があった。今回の改修で階段を新設することができるのは、上部が吹き抜けている、このリビングダイニングに限られ、部屋の有効面積がさらに小さくなってしまうことが課題となった。
そこで、施主の住み慣れた生活動線や、愛着のつまった物に囲まれた雰囲気を継承しつつ、なるべく空間を狭めない提案として、聴きたい時に取り出すレコードと同じように、ロフトへ上がりたい時に引き出す階段、たくさんの雑貨類と階段が一緒に仕舞われる棚、そして必要な時に部屋を仕切ることができる建具が、一体となった間仕切りを製作した。
それは、現在そしてこれからの施主の暮らしに、柔軟に寄り添う間仕切りであると同時に、施主がこの部屋で暮らしてきた長い時間を、部屋の風景に留めている。
引き渡し後しばらくして、竣工写真を撮りに伺ったのは、ちょうどクリスマスの時期だった。季節を意識してそれとなく飾られている赤や緑の小物と、改修前から変わらずある、過去に訪れた美術館のチケットをストックしているコルクボードや可愛らしい時計のオブジェが、改修後新設された棚に並んでいた。ロフトの窓越しに見える天使の羽も、よく見覚えのあるものだった。アールがかった低いロフト天井の表情が際立つように照明が吊り下げられたり置いてあったりした。それらを見て嬉しいのは、改修後の部屋と施主との間に、私が設計段階で意図できるはずのなかった物語がいくつも生まれていると感じられるからだ。自分との間に物語を紡げる対象に対して人は愛着を持つということを改めて感じた。当事者ではない設計者は全ての物語を描き切ることはできないし、設計者に描かれた物語はフィクションでしかない。設計者にできるのは観察すること、そしてそれを記録すること、それらを土台として、使い手が主体的に物語を紡ぐことができる対象をつくることだと思う。
ロフトへ安全に昇降できる階段の新設と、設備更新を主な目的としたマンション一室の改修計画。施主の長年の暮らしを途切れさせず継承することを重視し、必要箇所のみの部分的な改修を実施。リビングの限られた空間を活かすため、雑貨やレコードと共に収納でき、使う時だけ引き出す階段を備えた間仕切りを製作。生活の変化に応じて空間を仕切ったり繋げたりする柔軟さと、施主の時間の積層を感じられる空間づくりを目指した。
施主が長年暮らしたマンション一室の改修計画。主な要望は、老後に備えてロフトへの行き来がしやすくなるよう、既存の折りたたみ式階段を撤去して昇り降りしやすい階段を新たに設けることと、老朽化した設備を更新することの2つだった。改修範囲は必要な箇所のみに絞り、長年積み重ねた施主の暮らしが改修後も途切れず続く計画を目指した。
普段一人で暮らす施主は、下層の、玄関・洗面所・リビングダイニングの各部屋を仕切る建具を開け放し、くるくると回遊できる生活動線で暮らしていた。施主にとって、ロフトへの階段や建具は、パートナーの滞在時や来客時など、普段の生活が少し変調する時、それに合わせて空間を広げたり仕切ったりするためのものだった。
また、改修前のリビングダイニングは、可愛らしい雑貨の数々、レコードやカセットなど、愛着のつまった多くの物で囲まれていた。それらが雑多に置かれた空間は、施主がこの部屋で積み重ねてきた時間が自ずと伝わってくるような魅力があった。今回の改修で階段を新設することができるのは、上部が吹き抜けている、このリビングダイニングに限られ、部屋の有効面積がさらに小さくなってしまうことが課題となった。
そこで、施主の住み慣れた生活動線や、愛着のつまった物に囲まれた雰囲気を継承しつつ、なるべく空間を狭めない提案として、聴きたい時に取り出すレコードと同じように、ロフトへ上がりたい時に引き出す階段、たくさんの雑貨類と階段が一緒に仕舞われる棚、そして必要な時に部屋を仕切ることができる建具が、一体となった間仕切りを製作した。
それは、現在そしてこれからの施主の暮らしに、柔軟に寄り添う間仕切りであると同時に、施主がこの部屋で暮らしてきた長い時間を、部屋の風景に留めている。
引き渡し後しばらくして、竣工写真を撮りに伺ったのは、ちょうどクリスマスの時期だった。季節を意識してそれとなく飾られている赤や緑の小物と、改修前から変わらずある、過去に訪れた美術館のチケットをストックしているコルクボードや可愛らしい時計のオブジェが、改修後新設された棚に並んでいた。ロフトの窓越しに見える天使の羽も、よく見覚えのあるものだった。アールがかった低いロフト天井の表情が際立つように照明が吊り下げられたり置いてあったりした。それらを見て嬉しいのは、改修後の部屋と施主との間に、私が設計段階で意図できるはずのなかった物語がいくつも生まれていると感じられるからだ。自分との間に物語を紡げる対象に対して人は愛着を持つということを改めて感じた。当事者ではない設計者は全ての物語を描き切ることはできないし、設計者に描かれた物語はフィクションでしかない。設計者にできるのは観察すること、そしてそれを記録すること、それらを土台として、使い手が主体的に物語を紡ぐことができる対象をつくることだと思う。
Design: Mire Kan
Construction: omusubi design
Furniture: okwakaguseisakusho
Steel: tuareg
Action research: Keisuke Sugano
Environmetal Advisor: Masamichi Oura
Photographer: Kazuyuki Okada, Takahiro Sashio